極限脱出　9時間9人9の部屋のゲームプレイです。


ここから9年前と現在の2つの時間軸で話が進んでいきます。

【9年前】



淳平は形成場を介して、私の送った情報を受け取ってたのだ。だから知っていたのだ。ただそれだけのことだ。

では、どうして私は異なる歴史のことを知っていたのか…？

[5回]

今ここにふた股に分かれた川があるとする。『人』の字を考えてもらうとわかりやすいだろう。

当然のごとく、川は上流から下流に向かって流れている。決して逆向きに流れる事は無い。

情報も同じ。常に過去から未来に向かって流れ、逆流することはない。

だから川上(過去)にいる人間は、川下(未来)のことを知ることはできない。



また一方の川下に居る者は、もう一方の川下の事を知らない。情報は川の流れに乗って運ばれていかないからだ。

けれど……私にはそれがわかる。形成場を介して、川下の情報を知ることが出来るのだ。ふた股に分かれた川下(A)のことも、川下(B)のことも、私はわかる。

(A)と(B)にいる人たちは、それぞれお互いの川下のことは知りえないのに…。

さて……。ところで【私】とは一体誰なのだろう？

私は私…。英語でいうと【I(アイ)】…(9)番目のアルファベット。であると同時に、私は【ゼロ】でもある。

いや、正確にいうと、今の私はまだゼロではないので【ゼロ未満】ということになるだろうか。

私は未来の【ゼロ】…。今から9年後…私は【ゼロ】に成るのだ。


【9年後】



【俺は】…焼却炉の壁の一点を茫然と見つめていた。

紫…。茜…。

彼女は一体どこに行ってしまったのだろう…？と…次の瞬間…！




四葉：「サンタ！」



サンタ：「動くな。」


その銃口は今、一宮の頭にぴたりと添えられている。




サンタ：「立て。」


サンタは一宮のえり首をつかむと、強引に彼を起き上がらせた。



もはや気力をなくしてしまったのか、一宮は抵抗する素振りさえ見せない。徐々に遠ざかっていくふたりの姿…。その行く手には、ぽっかりとくちを開けたゲートが待ち構えていた。


淳平：「どうするつもりだ…。」

サンタ：「俺はサンタクロース。あいつの願いを…叶えてやるのさ。」


それが最後の言葉となった。サンタは一宮をひきずるようにしてゲートを出て行った。直後…焼却炉の扉が閉まった。焼却炉の中には5人が残された。ニルス、四葉、セブン、八代、それから俺の5人だ。

痛みが引いたのか、セブンは頭を振りながらゆっくりと立ち上がった。扉は案の定開かない。


淳平：「ダメだ、やっぱり開かない…。」



八代：「閉じ込められたってこと…？」



ニルス：「みたいだね…。」



セブン：「サンタの野郎、一体になにをたくらんでやがるんだ。」

四葉：「まさか…。」

セブン：「まさか…なんだよ…？」

ニルス：「この状況から考えて、これからサンタが行う事はひとつしかないだろう。」

八代：「ちょ、ちょっとやめてよ、冗談でしょ…！？」


俺はくるりと振り返り、走り出した。【9】の扉へと向かう。…ダメだ、今ここにいる人間ではこの扉は開かない！


四葉：「淳平、手帳とペン、貸してもらえる？」


四葉は急に素早く足し算の式を書き始めた。やがてその手が止まる。刹那…四葉の表情がにわかに曇った。かと思うと、彼女は突然そのページをくしゃくしゃに丸めてしまった。


セブン：「おい、なにやってんだ、四葉！貸せ！」


セブンは強引にそれを奪い取った。破られたページを広げるセブン…。俺もわきからそれを覗き込んだ。そこにはこう書かれていた。




セブン：「これ以外の組み合わせは…ねえっていうのか…。」


俺と八代のほうを向いた。彼女はすでに察していたらしく、ふっと悲しげな笑みを浮かべて見せた。


八代：「いいわよ…。行きなさい…。」

淳平：「八代…。」

セブン：「そんなことできるわけねえだろ。」

八代：「あら、意外ね…。厄介払いができてせいせいするんじゃないの？」

セブン：「バカ野郎！！お前がいないと…。おまえがいないとな…。困るんだよ…。」


セブンは視線をそらしてつぶやいた。


八代：「困る…？」

セブン：「ああ、そうだ…。おめえみてえな悪い奴がいねえと、俺の商売は成り立たねえからな。」

八代：「…え？」

セブン：「とにかく、おまえを置き去りにするわけにはいかねえんだよ。」

八代：「セブン…。」

淳平：「もちろん…俺も反対だ。」


四葉とニルスもいわずもがなです。


八代：「ふっ、バカな連中ね、まったく…。」

ニルス：「ただ…。どっちにしろ扉は開かないんじゃないかな？4人で認証したとしても…。」

四葉：「え…？どうして…？」

ニルス：「一宮のことを思い出してくれ。僕は目が見えないけれど、あのとき一宮がREDにしがみついてなにをしていたのかぐらいはわかる。」

淳平：「ああ、そういえば…。」



ニルス：「いちおう試すだけでもしておいたほうがいいんじゃないかな？」

セブン：「試す…？」

ニルス：「そう…。試すんだ。」


4人はバングルをREDに手を押し当ててレバーを下げても扉は開きません。


四葉：「本当だ…。」

セブン：「開かないな…。」

ニルス：「9年前には確かに開いたはずなんだけどね。数字根が(9)になれば…。」

順平：「なにか設定が変えられてるってことが？」

ニルス：「かもしれないね。」


もはやどうすることもできなかった。他に出口はないのだ。天井は高く、9年前にセブンが姿を現した穴になんて届くはずもなかった。ただ成す術なく…途方に暮れるばかりだった。


【9年前】



【私は】見ていた。彼の眼に映るもののすべてを見ていた。

私は聞いていた。彼の鼓動を震わせる音のすべてを聞いていた。

匂い、味、肌さわり…。彼の互換に届くもののすべてを感じていた。

私は知っていた。彼の全てを知っていた。

何を考え、何を想い、何を感じていたのか…。

彼の心の揺らめきが、私には手に取るようにわかった。

その意識は彼の中にあった。形成場を介して共鳴し、ひとつに重なり合っていた。

私は彼自身であり、同時にひとりの傍観者でもあった。

…それはけたたましい衝撃音とともに始まった。今からおよそ9時間前のことだ。

私たちが閉じ込められた【この船】が…爆破されたのだ。

彼との共鳴はそのときからはじまった。私のモルフは彼の中に溶けてひとつになった。

彼…【淳平】の中に…。



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